ヤクルト、ドラ1奥川「即戦力」の看板下ろしたワケ 体力面にかなりの不安…球団側は“急がば回れ”の育成方針に転換へ

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現在、運転免許取得を目指し教習所通いの18歳。即戦力として当てにするのは酷か

 ヤクルトからドラフト1位指名された奥川恭伸投手(18)=星稜高=が25日、金沢市内のホテルで入団交渉を行い、松坂大輔(中日を退団)、田中将大(現ヤンキース)らと並ぶ、高卒新人では最高条件の契約金1億円、出来高5000万円、年俸1600万円(当時の最高年俸は1500万円)で合意した。最速163キロ右腕の佐々木朗希投手(18)=大船渡高=よりも完成度では上とされる高校ナンバーワン右腕だが、当初は「即戦力」としていたヤクルト側の評価に微妙な変化も。ゴールデンルーキーの1年目はいったいどうなる?(片岡将)

 「金額もそうですし、背番号も偉大な先輩方が背負ってきた番号。責任の大きさを感じますし、ふさわしい選手になれるように頑張りたい」

 見たことのないケタの数字が並ぶ契約書にハンコを押し、奥川は「甲子園の試合の方が緊張しましたが、また違った緊張感がありました」と初々しい表情で語った。

 背番号は「11」に決定。荒木大輔、佐藤由規(登録名・由規)ら、甲子園を沸かせた歴代ドラ1右腕と同じ宿命を背負う。上限いっぱいの“満額契約”は球団の高卒新人では由規以来11年ぶり。高卒1年目で2ケタ勝利を挙げた松坂(16勝5敗)、田中(11勝7敗)、阪神・藤浪(10勝6敗)に匹敵する、即戦力級の成績を残す期待の表れに映る。

 今秋就任の高津臣吾監督(51)も「勝てる投手、しかも即戦力の投手」という観点で、大学生や社会人よりも奥川を最高評価し、ドラフト会議前に指名を公表した。

 3分の1の当たりくじを引き当てた指揮官は、すでに来春キャンプの1軍スタートも示唆。ところが、この日の橿渕スカウトグループデスクは「1軍、2軍はまだ。来年1月20日の会議で決まると思います」と慎重な物言いに終始した。

 「即戦力と言いたいところだが、われわれに我慢が必要と考えている。現時点で投げる球は1軍でも通用するが、年間通して投げられるかというとわからない部分がある。ケガをさせては元も子もないわけですから」

 急なトーンダウンの背景として、球団関係者は「指名あいさつなどで本人や野球部関係者から聞き取った練習内容から、体力面にかなり不安があることが分かってきた」と明かす。「1軍で注目される中で無理をさせるより、扱いが地味になっても2軍で体づくりをじっくりさせる方が、結果的に近道になるんじゃないか」。急がば回れの育成方針に転換したのだ。

 球団が用意した契約内容にも、そうした思いが貫かれている。「出来高の部分では、数年を通じて達成できればOKというものもある。高校生ですから、来年すぐにというものではない」と橿渕デスク。5000万円分の出来高払いには最長5年間、数年間にわたって有効な項目を多数盛り込んだ。1年目で即結果を求めるのではなく、将来の成長を見込んだインセンティブだ。

 奥川自身も「最初から1軍で投げて勝てるのが一番うれしいですが、何よりも1軍で長く活躍できる投手になりたい。(来年は)その土台になる1年にしたい」と足下を見つめている。

 ただ、今夏甲子園の智弁和歌山高戦で見せた延長14回23奪三振1失点の完投劇や、U-18W杯カナダ戦での7回18奪三振といった、高校生離れした快投を目にしたファンが、ルーキーイヤーからの大活躍を楽しみにするのは無理からぬことだ。

 橿渕デスクは「この間のスタッフ会議でもまさにそこが焦点になった。結論が出ないんです。普通の高卒選手としてのプランがいいのか、それとも彼のための特別なものが必要か」と悩ましげ。

 「まずは1月の新人合同自主トレに入ったときの動きや、そこに至るまでに積んできた練習内容を見て判断することになる。こちらから彼に(出場時期や数字を)求めるということはありません。年間を通して投げる体力をつけるため、何が最善かを考えている」と試行錯誤を続けていく。

 前出関係者によると、「『即戦力ではない』という評価の部分で契約金と出来高を『最高評価から一段下げるべき』という意見もあった」というが、将来的な期待の大きさを契約に反映させることで最終的に決着した。

 ドラフト前後の夢の時間は終わり、厳しい勝負の世界への入り口に立って、現実と向き合うチームとルーキー。球界の宝を預かるヤクルトの責任は重大だ。=金額は推定